雑務に追われる医師をAIが救う - 現役医師が描く、医療DXの未来図とは
一見「完璧」なキャリアの裏で
現役医師として確かなキャリアを歩んできた Shimayuzさん。
誰もが羨む安定した道を選び続けることもできたはずの彼が、いま敢えて踏み出したのは「個人開発」と「起業」という未知の世界でした。
なぜか。
その背景には、医療現場を覆う深刻な課題があります。
患者と向き合う時間を奪うのは、終わりのない“書類の山”。
そして、10年以上前から言われ続けてきた「医療DXの遅れ」。
「この状況をどうにかしなければ、現場は疲弊し続ける。」
そんな思いを胸に、彼は本業の医師を続けながら、AIを武器にスタートアップを立ち上げ中です。
今回は医師としての経験と最先端の技術を掛け合わせ、医療の未来を変えようとする一人の挑戦者の物語をご紹介します。
起業のきっかけは「軽い気持ちの応募」
彼の挑戦は、経産省のスタートアップ支援プログラムから始まりました。
「シリコンバレーに無料で連れて行ってもらえるよ」と紹介されたとき、特に明確なビジョンはなかったんです。
「なんとなくAIを使って医療現場を楽にしたい」──そんな漠然とした思いだけで、とりあえず応募しました。
ところが、結果は意外なものに。
見事に選抜され、プログラムを通じて事業構想を練ることになり、さらにシリコンバレーでのピッチコンテストに進む20名に選ばれました。
「当時は本当に何も考えていませんでした。ただ“面白そう”だから応募しただけ。シリコンバレーに行けるならタダで行きたいな、くらいの気持ちでしたね。」
シリコンバレーで見えた世界
プログラムは単なる渡航ではなく、徹底した学びの場でした。
グローバルで戦う起業家に必要な姿勢、事業を立ち上げる際の注意点、ビジネスモデル構築の方法…。
短期間で濃密に叩き込まれる強烈な体験。
最終的にはピッチコンテスト100名の応募者から選ばれた20名がシリコンバレーへ渡り、そこでさらに競い合った。
優秀な参加者の中で、Shimayuzさんは7名のファイナリストに残りました。
「正直、最初はただの好奇心でした。でもここまで残ったら“ちゃんとやらなきゃ”と思うようになりました。」
華やかなキャリアのように見えますが、その裏には「最初はただの軽いノリ」という意外な理由でした。
AIとの出会いと「ピボット」
実は、ChatGPTがリリースされた2023年3月から毎日触っていました。
AIに事業計画を書かせ、アイデアを出させることも自然にやっていたそうです。
最初のアイデアは形にはなったものの、進めるうちに「これではお金を稼げない」と気づき、ピボットを余儀なくされたといいます。
「いろいろ考えた結果、“医師がやりたくない仕事”をAIで解決するのが一番価値があると思いました。」
その「やりたくない仕事」の多くは、雑務や書類業務。
医師として日々感じていた負担感と、AIの可能性がつながった瞬間でした。
医療DXが進まない3つの壁
とはいえ、医療業界は「DX後進国」と言われるほど、技術導入が遅れています。
その理由は大きく3つあります。
組織の分散性
医療業界には「大企業」のような統一組織がなく、病院ごとにバラバラに動き、まとまりがない。リテラシーとセキュリティ
医療は「間違いが許されない領域」。AIの導入には極めて慎重になる。保険診療の仕組み
新しいシステムを導入しても診療報酬は変わらない。病院に投資インセンティブがない。
シリコンバレーの起業家に「日本は10年前から同じことを言っている」と指摘されるほど、この遅れは深刻でした。
最初のターゲットは「紹介状」
数ある雑務の中で、Shimayuzさんが最初に着目したのは「紹介状」でした。
手術や治療が終わった患者を地域のクリニックに紹介するときに必要な書類です。
1件あたり10分。1日に何十人も患者がいる中で、医師は時間外にまとめて書くことが多い。
130人の医師にヒアリングした結果、ほぼ全員が「やりたくない業務」と答えたそうです。
「これはAIに代行させるべきだと直感しました。」
まずは紹介状作成を自動化し、将来的には病院全体の書類業務を効率化する構想でスタートしました!
5年後・10年後の未来像
Shimayuzさんは5年以内に100施設への導入を目指しています。
100施設に導入されれば口コミも広がり、病診連携(病院と診療所のネットワーク)もスムーズになります。
そして10年後には、紙の書類をやり取りする文化をなくし、完全にデジタルで連携する世界を描いています。
「2030年には診療ネットワークをデジタルで構築したい。紙の紹介状をプリントして封筒に入れて郵送する──そんな無駄をなくしたいです。」
モチベーションは「楽しいから」
兼業での挑戦は過酷です。日中は医師として働き、夜は開発。
子育てもあり、仲間も限られている。副業で手伝ってくれるエンジニアはいるが、資金不足で本格的には増やせない。
それでも続けられる理由を聞くと、彼は即答しました。
「楽しいからです。飲みに行く時間より、開発している時間の方が自分の理想に近いんです。」
この言葉に、彼の覚悟と純粋な情熱が凝縮されているんだと思います。
医療DXを後押しする時代の流れ
これまで病院は「投資」に消極的でした。
しかし、医師の残業時間に上限が設けられた「働き方改革」と、厚労省による「医療DX推進」が追い風になっています。
さらに試算すると、紹介状作成だけでも年間1,000万円以上の人件費がかかっているケースもあります。
もしAI導入で400万円削減できれば、その効果は無視できないものになるでしょう。
現役医師だからこその強み
過去に導入された電子カルテは「医療者以外が作ったため、現場で使いにくい」とされるものが多かったです。
だがShimayuzさんは現役医師。
「自分が使ってみて使いにくいものなら改善する。現場で本当に使えるものをつくれるのが自分の強みです。」
現場の声を反映し続けられる起業家であること。これこそが彼の最大の武器です。
周囲の反応
同僚からの反応はシンプルでした。
「すごいね。」
それ以上の言葉はなかったが、背中を押すには十分。
家族も心配しながらも応援してくれている。
「だからこそ、何とか結果を出したいんです。」
開発環境と進捗
開発にはChatGPT、Claude、Claude Codeを活用し、ワークフローはn8nをベースにしているとのこと。

すでに半分ほど完成しており、デモ版も存在しています。
ネット非接続環境も構築済みで、あとは契約を進め、フィードバックを得ながら完成度を高めていく段階です!
結び:医療現場を変える挑戦
最後に、今の思いを聞いた。
「本当に医療現場を変えたいんです。医師も患者も、もっと向き合う時間を増やせるように。」
現役医師として現場を知り、起業家として未来を描く。
Shimayuzさんの挑戦は、医療業界にとって小さな一歩かもしれません。
しかしその一歩は、やがて「医療の常識」を変える大きな一歩につながると、私は信じています。